イタリア旅行記、第三話目の今回も、ベネチア滞在での出来ごとについて話したい。
まだこれまでのストーリーを読んでいない方がいたら、まずはそちらを読んでいただけると流れがわかりやすいと思う。
【イタリア旅行記①】アートに酔い痴れる、オトナになってしたいイタリアひとり旅について語る – 序章
【イタリア旅行記②】ベッド購入。ベネチア人の家に転がり込んで始まった予期せぬ共同生活
ベネチアはたくさんの離島がある。ガラスで有名なムラノ島、イタリアンレースで有名なブラーノ島、ベネチア国際映画祭のメイン会場であり、ベネチアで唯一車や自転車が走るリド島など。
ロンドンからベネチアに飛び、イタリア旅行の最初の3週間弱程度をベネチアで過ごしたのだが(また旅行の最後にベネチアに戻って来るのだが)、その期間中にいくつかの島を転々として滞在した。
最初は本島、そのあとはリド島に移って、夏のビーチを楽しんだ。そしてその後行ったのが、ジュデッカ島という島。そこには1週間弱滞在した。
今回話したいのはジュデッカ島での話だ。
ジュデッカ島は、本島からヴァポレットという水上バスに乗ればすぐに行き来できるとても便利な場所なのだが、観光客がとても少なくすごく静かである。もともと工業的な地域で労働階級の人達が多いという場所だったらしいが、少しずつ変わってきているということを現地の人から聞いた。
ジュデッカ島は大きな庭付きの家があるので有名だ。本島は住宅や店が密集していて、なかなか大きな邸宅や庭を見ることはないけれど、ジュデッカ島には戸建ての建物が比較的多くあった。
ジュデッカ島ではAirbnbを利用して、そんな大きな庭付きの戸建ての家に泊まった。これが最高に良い場所だった。
まずは門を入ると、色とりどりの花で彩られた美しく手入れされた庭が私を出迎えてくれた。そしてその庭にはバーベキューエリアも設けられている。ベネチアの夏の日差しのなかで友達を迎えて食事ができたら素敵だろうななんて想像していた。
素敵なガーデンの景色に思わず描いた油絵が下の絵である。
また家の中はイタリアのアンティーク家具でデコレーションされ、2フロアに分かれたその家には3ベッドもあって一人で滞在している私にはもったいないくらい贅沢な広さと設備だった。
でもそれだけが、この宿泊場所の良かったポイントではない。
一番の魅力は、この家の表玄関を出て見られる景色だった。本島から距離があるがゆえに、贅沢にもドッジ宮殿やサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂 がパノラマで一望できるのだ。
それはモネが何度も描いていたあの景色だった。
そしてそれは私がベネチアで見た中で一番好きな景色の一つになった。
この家に滞在していた間、朝この景色を眺める度に、こんな美しい景色が見られることの幸せを身にしみて感じていた。
今回は特別に私が惚れ込んだその景色を動画でシェアしたい。
いかがだっただろうか。こんな景色を毎日見られたらどんなに最高だろうか。
正直、ジュデッカ島に滞在することを決めたときは何も考えていなかった。Airbnbで部屋が大きく写っていて、ベネチアで見た景色を油絵にするのに十分なスペースだと思ったからそこを選んだだけだった。
私は室内で絵を描くことは忘れて、数日後の朝に油絵の道具を持って玄関を出た。門を出ると目の前がすぐ海岸なのだが、そこにはベンチが数個並んでいた。
腰をかけて、ゆっくりと深呼吸をしてベネチアの朝の風を吸い込む。
油絵の道具を開き、朝の眩しい光のなか、仕事が始まる1時間程度の間、ジュデッカ島から見えるグランドカナルの景色を白いキャンバスに描いていった。
前の記事でも話したが、私がベネチアで唯一知ってたことは、恥ずかしくもモネの絵に描かれたグランドカナルだけだった。ここでどんな世界が広がってるかなんて、来るまでなにも知らなかった(ガイドブックや観光サイトさえ見てもいなかったから。)
でも、あのモネの心を動かした美しい景色、モネが聴いていただろう同じ波音、モネが感じていたであろう海の香り、それを目の前にしてゆっくりとした時間の中で、モネと同じようにパレットを広げ絵を描く。そんな状況に興奮しないわけがあるだろうか。
本当に贅沢な時間だと思った。
私は以前の記事で、人生において、好きな場所に身を置くことの大切さについて少し触れたことがある。
私は自分が好きだと思う場所にいることで、とてつもない高揚感を得る。その場所にいられることで得られる強い刺激や興奮が、私の生きる原動力となっている。今回のように泣きそうになるくらい心動かされる景色や空間に出会えたときの幸せは、それまで自分が辛かったことや悩んでいたことをすべて忘れさせてくれるくらいのパワーを持っていて、とてつもない幸福感に包まれる感じがした。
このときにジュデッカ島で見た景色とその衝撃は、一生忘れることはないだろう。
私はこうして絵を描きながら旅をしたりしている。そしてそれぞれの場所で自分が直接見て感じた高まる感情を、絵を通して伝えられたらと思っている。
ぜひ、My Artのページで、私がこれまでの旅で出会い、描いてきた景色を見ていただきたい。この記事を読んでくださっている方が、今その景色を直接見れない状況にいたとしても、私の絵が少しでも何か見てくれている人の心に響くものがあったら嬉しいと心から思っている。(それぞれの絵をクリックすると、その絵の短い解説が書かれているので、時間があったらぜひ読んでみてほしい)
そして、もし私みたいに絵を描くことが好きな方がこの記事を読んでいてくれたとしたら、ぜひ好きな場所に足を運んで、直接得られるインスピレーションを大切に筆を取ってみてはいかがだろうか。
それでは、また別のイタリア紀行の記事まで。