こんにちは。ロンドンをベースにして世界を巡りながら絵を描いているSATOMIです。
イタリア大人一人旅の旅記録の第5弾は、前回に引き続きシエナでのお話。
前回までの話を見ていない方がいたら、他の記事も覗いてほしい。
このイタリア旅行の中で、私はぼんやりとトスカーナ地方で見たい景色があった。
私のなかでトスカーナの景色といえば、季節のよって表情を変える360度一面に広がった牧草地に、曲がりくねった道に等間隔に細い木が立ち並んでいる光景である。一度はなにかの写真で見たことがある人も多いのではないか。
でも、その場所の名前は知らなかった。
いつものように現地(今回はシエナ)に着いてから、自分が頭に思い描いていたトスカーナ地方の景色を人に言葉で伝えて、そこがどこであるのかを突き止めていった。
いろいろな人に聞いていると、私が行きたいと思っていた所はどうやらオルチャ渓谷(Val D’Orcia)の周辺であることがわかった。
シエナに来るまで、ベネチアやミラノ、ボローニャなど、イタリアのさまざまな街を転々としてきたが、そこで会った人々が口を揃えて美しい場所として挙げていたのが、トスカーナ地方で、その話をずっと聞いていたから私の期待はどんどん上がっていたし、その景色から絵画のインスピレーションを得たいと思っていた。
ただ、その絶景スポットは人里離れた所で、電車なんか走っていないし、バスも止まってくれない。
シエナからどうしたらそこに訪れることができるのか、ずっと考え込んでいた。
ある日、パソコンを片手にシエナのカンポ広場のレストランに行き、仕事をしているときだった。
ウェイターのイタリア人の若い男性がパソコンに向かって仕事をしている私に声をかけてきた。
「ここで何してるんだい?」
そう聞かれると私は、
「仕事だよ。これまで1ヶ月半くらい仕事をしながらイタリアを旅して回っているんだよ。」
と答えた。
すると、その男性は
「そうなんだ、Val D’Orcia(オルチャ渓谷)は行ったかい?」
Val D’Orciaという単語が出てきた瞬間に驚いて、とっさに
「行ってないよ!ずっと行きたいと思ってるんだけどね」と言った。
「僕が車で連れて行こうか?」
「・・・え?」
驚いた。そして即答で、
「うん、お願い!」
と答えた。奇跡だと思った。シエナからそろそろフィレンツェに移ろうと思っていた所で、シエナを離れる前にどうしてもオルチャ渓谷に行きたいと強く思っていた矢先の、絶妙すぎるタイミングでの彼からのオファーだった。
そして彼は、ちょっと仕事中だから待ってねといい、しばらくしたら私の席に戻ってきて、紙に携帯電話番号を書いて私に渡してきた。
話をすると、彼は天体に興味があり、もう少しでカナダに引っ越しするらしく、普段は北イタリアにいるが一時的にいまシエナに数ヶ月遊びに来ている中で、このレストランで小銭稼ぎをしているらしい。
インターナショナルな思考を持った彼とはすぐに気が合った。
そして彼は、ここ最近無休で働いていたが、たまたまその2日後に久しぶりに一日休みが取れるらしい。彼はその貴重な休日を使って、わざわざ私が行きたい場所を案内してくれると約束した。
行きたいと願っていた場所にこんな形でいけるなんて・・私の気持ちは舞い上がっていた。
そして当日、彼のマンションの近くのカフェの前で待ち合わせした。普段着を着た彼が車の横で待っていた。
彼がシエナにいる期間のためだけに調達したという年季の入った車が、この日帰り旅にまたいい感じの味を加えてくれた。
彼の名前は、ラファエラ。多分年も同い年くらい、天体の写真を撮るのが好きで、それに関連したビジネスをカナダでしたいと考えているらしい。写真好きのラファエラは、彼の個人のカメラを持ってその日私の観光に付き合ってくれた。
行くルートはすべて彼に任せた。
天気も申し分ないくらいの快晴だった。
彼は、以前に彼自身がオルチャ渓谷を見て回った中で気に入ったスポットのところに私を連れて行ってくれた。そして、私がなにか絵のインスピレーションになりそうなものや風景を見つけた時には、そこに車を停めて私が写真を撮るのを待ってくれた。
オルチャ渓谷は私が想像していた通りの絶景だった。
とくに、モネの積みわらの絵のシリーズ(下写真)が好きな私は、田舎で上の写真にあるようなわらの束を見つけては、いつも興奮してテンションが上がるのだ。いつか自分の目で見た積みわらを、自身の描き方で描きたいと思っているので、たくさん写真を撮っていった。
これは、彼が写真を撮っているところを私が盗み撮りしたところ。
そして、オルチャ渓谷でのドライブで一通りの景色を見て回ると、彼は「モンタルチーノでワインを飲みに行こう」といって、トスカーナ地方の中でもワインで有名な街に車を向かわせた。
その向かっている間に見えるワイン畑も絶景で、車の窓を開けて絵になりそうな写真を撮っていった。(上のインスタグラムをスワイプするとワイン畑の景色が見れる)
そしてモンタルチーノに着いた。とてもこじんまりとした小さな街のようだが、駐車場には結構多くの車が停まっていた。
街に入っていくと、ワインショップが並んだこの街のメインと思われる小さな道にすぐにたどり着いた。
色々なお店を物色した結果、最終的に一番大きな、道の一番奥にあるワインショップでワインテイスティングをすることにした。
正直私はワインにとても疎いので、お店の人がワインの解説をしてくれるものの、全然耳に入ってこなかった。
モンタルチーノワインも色々なグレードがあるらしい。(細かい事は残念ながらおぼえていないので、是非現地に行って直接話しを聞いてほしい)そこでテイストしたワインは、これまでに飲んだことのないアーシーな独特の風味で、正直私の好きなタイプではなかったけれど、彼がわざわざここに連れてきてくれてワインを一緒に飲んでいるこの瞬間に私は十分に満足で、味はどうでも良かった。
ワインテイスティングが終わった頃には日が陰り、夕焼けがトスカーナの草原を真っ赤に染めていた。
そして私達はまだまだ訪れたいところがあったが、名残惜しさを感じながらシエナに戻っていった。
彼のマンションの駐車場に到着し、車を降りた。彼とハグをして、今日はどうもありがとう、本当に楽しかったと伝えた。
彼も一緒の時間を楽しんでくれていたようで、また会おうと約束して別れた。
ちなみに家(滞在先)に帰ったら、Airbnbのホストの優しいシチリア出身のイタリア人が美味しいイタリア料理を作って待ってくれていた。そしてその時に開けてくれたワインが、またモンタルチーノのワインだったのだが、違うメーカーのもので、その日モンタルチーノでテイスティングしたものと全く味が違ってすごく美味しかった。なので、最終的にモンタルチーノワインの微妙なイメージを払拭できた。
その後もラファエラとは連絡を取り合い、親切に観光のアドバイスをしてくれたりした。
私が2週間のシエナでの滞在を終えてフィレンツェに出発する当日、彼の働くレストランに行ってさよならを伝えにいった。
「シエナを発つよ。素敵な時間をありがとう」
心からそう思った。彼がいなかったら、私の念願のトスカーナ巡りはできていなかったし、これだけの絵のインスピレーションを得られることはなかった。
何より私は彼との会話をとても楽しんでいたし、彼のお陰でシエナの時間が忘れられないものになった。
「連絡を取り合おうね」そう言って、チークキスをしてさよならをした。
その後、彼は予定通り北イタリアに戻った。もし私が近くに行くことがあれば再会しようといっていたが残念ながら実現することはなかった。
ラファエラとまたもし世界のまたどこかで会った時には、あのときの思い出話ができたら良いなと思う。
イタリアで見た景色をこれから少しずつ絵にしていくので、ぜひMy Artもたまに立ち寄ってほしい。そして気になる絵があればぜひコンタクトから気軽に連絡をいただけたら返信をさせて頂く。
もしまだイタリアの他のエピソードを読んでいない方がいらっしゃったら、ぜひ合わせて読んでほしい。
それでは、また次のイタリア旅行記まで。