今日のイタリア旅行記はトスカーナ州のシエナでのお話。
これまでのイタリア旅行記をまだ読んでいない方がいたら、流れを知るためにも先にそちらを読まれることをおすすめする。
さて、もとに戻るが、今回はシエナでのお話。シエナは世界遺産にも認定されている中世の町並みが広がる美しい小さな町だ。
数日間パルマに滞在した後、夕方の電車に乗り、シエナに移った。パルマからの直行の電車がなかったので、長時間旅に疲れ果てながらシエナに着いた頃にはすっかり暗くなっていた。
ここでもAirbnbに滞在した。そして今回のホストは、シチリア出身の弁護士。とても優しい面倒見の良い人であった。シエナの中心地からとても近く、観光するには最適な場所だった。そして、また終わりを定めないシエナでの滞在がスタートした。
翌日、早速街を歩いて回った。シエナはこじんまりとしていて、数日あればメインスポットならすべて回り尽くせるくらいだろう。これまで訪れてきたイタリアの街とは違う美しさを持った歴史ある街並みを眺めながら歩いていると、そこに豚の絵が書かれた看板が掲げられているちょっと変わった派手な小さな食品店を見つけた。
思わず気になって中に入っていく。
見たこともない種類のチーズ、ハムやサラミなどの加工肉が、ガラスのケースにずらっとならんでいた。天井にもサラミなどが所狭しと吊り下げられている。壁にはワインボトルやドリンクが並べてあって、スペースというスペース、すべてが美味しそうな食べ物で埋め尽くされていた。
ごちゃごちゃした小さな店が無性に好きな私の心は一瞬で舞い上がった。ここの店内の絵を描こう、そうすぐ思った。
人が3・4人入ったらいっぱいになるような小さな店内を一通り見渡し、携帯で店内の写真を撮ろうとすると、レジの上に
【NO FOTO, NO FILM】(写真・動画の撮影禁止)
の言葉が書いた板が吊り下げられているのを見つけた。
一気に落ち込んだ。こんな独特の雰囲気あるお店はロンドンでも他のイタリアの街でも見たことはなかった。どうしても諦めきれなかったために、思わず店主に声をかけた。50代くらいの白ひげがチャーミングな恰幅がいいおじさんだった。
「このお店がとても素敵なので写真を撮りたかったんですが、撮影禁止なんですね。代わりに絵だったら描いてもいいですか?」と。
ダメ元でのお願いで、断れることは覚悟だった。そうしたらおじさんは流暢な英語で、
「明日来るのであれば、お店の隅で絵を描いていいよ」と言った。
思わぬ返事にわたしのテンションは一気に上がって、満面の笑みで「ありがとう、そしたら明日また来るね」と言った。
お店を出る前にそこで売っていたビスケットを数枚買っていたとき、その店が、Airbnbのホストが世界一美味しいビスケットだよといっておすすめしていたビスケットであることに気付いた(ホストはここのお店の弁護士も担当しているらしい。)
翌日、仕事で休みを取ってスケッチブックと水彩道具を持ち、朝の11時くらいにまた店を訪れた。
「戻ってきたよ!」
そう言うと、おじさんも活きのいい挨拶をしてくれた。そして小さなお店の隅に、椅子やテーブルを開けてくれて、私の絵を描くスペースを用意してくれた。
彼の名前はアントニオ、ナポリ出身の気さくなイタリア人。そしてもうひとり、そのお店で働いているのは40代くらいの北イタリア出身のステファノだ。
早速持ってきたスケッチブックを開き、ペンを出して、お店の絵を描き始めた。
描き始めて間もないくらいに、
「ビスケットはいるかい?ワインもつけよう」
といろいろな食べ物や飲み物をテーブルの横に並べ始めてくれた。
昼が近くなると、お店のソーセージを裏で焼いてサンドイッチを作って出してくれた。
それが終わると今度は紅茶の時間だと言って、ブラックティーを入れてくれた。
そして、今度はお店に飾ってある年代物のワインを飲み比べさせてくれて、アントニアのちょっとしたワイン講義が始まった。(実際、ワインに似たような何か他の濃い飲み物だったのだが名前は覚えていない・・)
そんなこんなしている間に、ドローイングは着実に出来上がっていった。
小さいお店の中に常連と思われるような地元のイタリア人客から、観光客まで、常にお店は人でごった返していた。
絵を描き始めてから5時間くらいが経って、とってもらった動画がこちら。彼らの陽気な性格のお陰で、昨日出会ったとは思えないくらいすっかり私は打ち解けていて友だちになっていた。
だいぶ疲れたなと思った頃には、お店に来てスケッチをはじめてからもう7時間以上が経っていた。
スケッチもなんとか描き終わり、色を水彩絵の具で足したかった。
「また水彩画をしに戻ってきても良い?」
そう言うと、彼は二つ返事でいいよと答えてくれた。
そして、お店を後にしようとすると、袋いっぱいに入ったハムやチーズ、パンを私に手渡してくれた。
それからというもの、このDe Miccoliというこのお店は、最終的に2週間滞在したこのシエナで、私の毎日の「行きつけ」の場所になった。
次は、水彩画絵の具を持っていった。この前とまた同じ場所に席を設けてくれた。この前のように、またたくさんの食べ物と飲み物で私を歓迎してくれた。
小さな空間で、彼らが朝から晩まで一生懸命接客をする横で、素敵な彼らの様子を描いていく。
聞けば、アントニオは休みなく毎日仕事をし、夜7時位に店を閉めた後には、自宅に戻って次の日の下ごしらえを夜遅くまでして、また朝8時位に店を開けるという生活をずっと続けているらしい。
そんな私には過酷とも思えるようなスケジュールでも、疲れなどを一切感じさせないくらいいつも陽気に振る舞っていた。
ステファノは英語が喋れなかったが、いつも私を笑顔で歓迎してくれた。彼らと長時間、何日もの間過ごした濃密な時間は、私のなかでかけがえのない時間となった。
アントニオはしまいに、私が言った「イタリア旅行はすごくお金がかかるんだよ!」という冗談まじた言葉に(あながち冗談ではないけれども笑)、ぼくがシエナで面倒をみるからね。
っていって、訪れる度に袋いっぱいの食べ物とお駄賃(32歳だけれども)をくれた。
とにかくお店にいる時はかわいがってくれたし、連絡先も交換していたから、なにかあったら私に連絡をしてきて「どこにいるんだ~?」って気にかけてくれた。
シエナに滞在し始めてから2週間近くが経とうとしていたため、そろそろフィレンツェに移ろうと思いはじめた。
彼らとの濃厚な時間に、別れはすごく寂しかった。そして出発する前夜に、彼らに水彩画でサンキューカードを描いた。
最終日、バスでフィレンツェに向かう前、いつものようにお客さんで賑わうお店に立ち寄り、そのサンキューカードを渡し、彼らに素敵な時間を本当にありがとうといってハグをした。
彼らとは、その後のイタリア旅行の間もずっとメッセージでやり取りをしていた。
ステファノは英語が喋れなかったけど、Google翻訳で日本語で短いメッセージをよく送ってくれた。
ロンドンに戻ってきた今でも彼らとはたまにやり取りしている。イタリア旅行の途中でこんなにも素敵な友達ができたことは私の一生の思い出であり、何にも変えられない宝である。
一人旅は、こんな楽しい思いもよらない出来ごとが次から次へと起こるから、わたしは可能な限り旅をしてたいし、そこで得た刺激からもっともっと多くの絵を残していきたいと思っている。
ぜひ、イタリア旅行からインスピレーションを得て描いた絵をMy Artに載せているので見ていってほしい。
それでは、また次のイタリア旅行記で。