ロンドンのセントジェームスエリアにある小さなギャラリー(クリスティーズの近く)で、展示してあったルノワールの絵を見ながらギャラリーの人と喋っていたとき、ルノワールのなめらかで滑るようなタッチの絵はどんなキャンバスの上に描かれているのか気になって、
「これどんなキャンバスに描かれているか知ってますか?」
そう尋ねると、その男性がおもむろにルノワールの絵をひっくり返してキャンバスのテキスチャを見せてくれた。(ルノワールの絵の裏を見れて、私は大興奮してました。)
絵がどんな支持体(支持体とは絵が描かれているキャンバスなどの材質のこと。英語ではサポートと言う)に描かれているかということは、アートを鑑賞、コレクトする上で知っておきたいエレメントの一つ。素材が違うだけで描かれる絵の雰囲気自体がだいぶ変わります。
今日、オークションシーンで高額で取引される多くの絵画はキャンバス地ですが、それ以外にもたくさんの材質がその時代に存在したもの(開発されたもの)をベースに使われてきました。
絵画の支持体がどんな歴史を辿ってきたかを知っていると、絵を見たときに面白みがもっと湧くもの。
今日は紀元前 の洞窟壁画から現代も愛されるキャンバス絵画まで、絵がどのような表面に描かれてきたのか、絵画の歴史を支持体の観点でカンタンに説明していきたいと思います。
今回の参考文献はこちら。
書籍、The story of Painting(英語)は美術史の中でも絵画のみにフォーカスして、豊富なトピックスがカンタンにわかりやすくまとめられていて、おすすめ。リンクはAmazon(イギリス)のアフィリエイトです(日本のAmazonでは売ってないですが、イギリスからお取り寄せできるはず)。Britannica(英語)のサイトも絵画のみならずアートの歴史を勉強するにはおすすめのソースです。
The Story of Painting: How art was made
岩 (Rock)
今から4万年程以上前、洞窟の中の岩壁や地面、天井に描かれた絵がこの世での最初の絵として知られている。最古のものはフランスのショーヴェ洞窟内の壁画とされており、その他ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア、北米、アジア等でも見つかっている。塗料は粉状の天然色素やベリーなどと動物の血や脂肪の混合物で、多くは黄色、黒、赤などのカラーが多かった。動物や狩人のモチーフを中心に描かれていた。(岩を彫刻するペトログリフと混同させないように注意)
壁 (Wall)
かつての壁画は古代エジプト人や、ローマ人の間で広く取り入れられ、すりつぶした石灰石、泥、チョーク、石膏(柔らかい鉱物)や白の顔料を建物(礼拝堂、埋葬室や家など)の壁に塗り、乾いたらそれを下地として壁に絵を描いていった。ローマ人は写真に見られるような、鮮やかで自然モチーフの絵を描いていく。
パーチメント(Parchment)
パーチメントとは乾いた動物の皮で、古代エジプト人によって取り入れ始められた。とくに子羊や子牛などの若い動物の皮はなめらかで耐久性が強い。この材質は中世の写本やミニアチュール(細密画)に好んで使われていた。
パネル(Panel)
木板はローマ人の肖像画やビザンチンのイコン(聖像画)にもともと使われはじめ、パネル絵画は1100年から1500年の西ヨーロッパで広く広まった。オールドマスターの絵画では、イタリアのポプラと北ヨーロッパのオークの2種類の木材が最も一般的。松やモミなどの針葉樹や、ライム、ブナ、ヤナギ、クルミ、ナシ、サクランボなどの広葉樹など、ヨーロッパで見られた他のさまざまな樹種も使用された。硬く滑らかな表面のため、細部を描くのに適していたが、絵画が早く劣化しやすいという特徴もある。
キャンバス (Canvas)
パネルに代わって、1600年代からヨーロッパで広く浸透し始めたのがキャンバスでリネンやヘンプから作られていた。軽くて持ち運びしやすく、頑丈で、比較的安価で手に入るのが特徴で、大きな作品を描くのにとても便利であった。通常キャンバス(布地)は木枠に張って描かれる。
紙(Paper)
古代中国で発明された紙は、黒鉛やパステル、水彩画の絵に広く用いられてきた。軽くて持ち運びに便利な上、さまざまな重さ(厚さ)や色があり、中には油絵に使える紙もある。
いかがでしたでしょうか?
使用していた支持体は違えども、歴史を辿ってみると、その時代の身近であった素材を使いながら絵画の表現方法や存在意義が少しずつ変化していきました。
私が油絵を描くのはキャンバスが多いですが、パネルを使ってツヤっとした質感を楽しむことあります。
いろいろな絵画を見ながら、自分の好みのテキスチャをぜひ探してみてください。