Madonna and Child by Simone Martini
ある日、ロンドンの住宅街を歩いてた時のこと。通りかかった教会で絵の展覧会を開いているのを見つけて、思わず中に入ってみると、ローカルの人達が描いた絵がたくさん並んでいました。その奥に進んで行くと、一人の男性が絵のデモンストレーションをしていて、そこでみんなに見せていたのがテンペラ画。
それまで、テンペラ画がどのように描かれていたか知らなかった私は、絵の具を作る技法から塗り方まで、気さくに説明してくれたことにとても興奮したのを覚えています。
イギリスにはアートをきっかけに地元の人が繋がっている場所が多く、とても素敵だなって改めて思いました。
本題に戻り…ヨーロッパの美術館を訪れたときに、必ず目にするのがこのテンペラ画。
今回そのテンペラ画についてわかりやすく解説していきたいと思うんですが、新しい試みとして、英語に日本語訳を加える形で、みなさんにもアートのことを学んでいっていただけたらと思ったんです。
なぜそうしようと思ったかというと、私がイギリスや海外の美術館を見て回るときに英語の解説がわからずに、とても残念に思うことがたくさんあったから。
だから、少しでも英語で美術史のことを勉強して、ヨーロッパの美術館に訪れた際に、あ、これはこういうことをいってるんだっていう感覚を皆さんにも味わってもらい、西洋アートの世界を身近に感じるきっかけになればと嬉しく思っています。
といいながら、私自身も自分の美術史の勉強になっているので、結局は自分自身のためになっているんですが。
ひとまず少しの間は英語と日本語の同時解説でやっていきますが、日本語のみのほうが良いという意見が多いようであれば、また元の形に戻します。
ちなみに日本語の翻訳文は、わかりやすいように一部意訳しています。
知っておくとためになるアート関連の英単語には下線を引いています。
ひとつ始める前に、わたしが好きな「The Story of Painting」という本を少し紹介します。
今回参考にする英文は一部こちらから抜粋させてもらったものです。とてもわかり易くまとまっていて、比較的簡単な英語で書かれているので、英語が苦手な人にもとてもおすすめ。日本では売っていないですが、イギリスのアマゾンから取り寄せできるはずなので、ぜひ気になる方は購入してみてください。(リンクはイギリス・アマゾンのアフィリエイトになっています)
The Story of Painting: How art was made
テンペラ画とは? – What is Tempera?
卵テンペラは、ルネッサンス期に油絵の具が流行る以前に主流であったミディウムである。古代エジプトやメソポタミア時代には、墓の壁画やミイラケースの装飾、パピルス(パピルス草を使って出来た紙)の挿絵等にテンペラ画が見られた。また、ロシアやビザンチンの宗教的なイコン画にもテンペラが使われていた。テンペラ画は、1200年から1500年頃のイタリア画家によって木製パネルに描かれたものがピークとされている。
Before oil paint replaced it during the Renaissance, egg tempera was commonly used. As far back as ancient Egypt and Mesopotamia, artists painted tomb murals, decorated mummy cases, and made papyrus illustrations with egg tempera. It was also the paint used in Russian and Byzantine religious icons. Italian artists from about 1200 to 1500, who painted on wooden panels, are generally considered to have reached the peak of painting in tempera.
引用:The Story Of Painting
テンペラ絵の具の作り方 (Making egg tempera)
古典的なテンペラ画で最も主流なのは「卵テンペラ」。この技法では、ほとんどの場合、卵の黄身の部分だけを使い、白身と卵黄の膜の部分は処分する。粉末状の顔料、あるいは蒸留水で粉砕した顔料をパレットやボウルに乗せ、ほぼ同量の結合剤(油など)と混ぜ合わせて作られる。
The most common form of classical tempera painting is “egg tempera”. For this form most often only the contents of the egg yolk is used. The white of the egg and the membrane of the yolk are discarded. (省略)Powdered pigment, or pigment that has been ground in distilled water, is placed onto a palette or bowl and mixed with a roughly equal volume of the binder.
引用:Wikipedia
テンペラ画の技法 (Tempera technique)
まず絵を描き始める前に、木製のパネル上に、ジプサム(石膏)を原料とした真っ白なジェッソを何層にも塗り重ねるのが一般的(これによってなめらかな表面になり、テンペラ絵の具がより明るく映えるようになる)。そして、画家たちは肉体の部分に、グリーンアースという顔料を下塗りして冷たい(カラーの)陰影をほどこした。
Before painting began, wooden panels were usually prepared with several layers of bright white gesso, made from the mineral gypsum. (省略) Artists underpainted areas of flesh with the pigment green earth, to create cool shadows where needed,
引用:The Story Of Painting
その他のテンペラ画の特徴
・テンペラ絵の具は中に含まれる水分が蒸発すると黄身がすぐに固まりはじめるため、油絵の具よりも乾きが早いのが特徴です。そのため、昔の画家たちは必要なときに必要な分だけのテンペラ絵の具を作っていました。
・肌色の色は時が経つと落ちてきてしまうために、下に塗っているグリーンアースの色が残り、現存するテンペラ画では顔や体の色が暗く写っています。
・色を薄く塗ることによって、絵の具が剥がれ落ちるのを防いでいました。
・現代アートの世界でも、テンペラを好んで使っているアーティストもいるので、ぜひ美術館に行ったらメディウムの記載欄に注目してみましょう。
多数のテンペラ画を所蔵するロンドンのナショナル・ギャラリーの公式動画で、テンペラ画と油絵を解説していて面白いので、ぜひ興味があれば見てみてください。
いかがでしたでしょうか?
今回英語での解説を初めて試みてみましたが、なにか少しでも勉強になっていたら嬉しいです。
海外の美術館に行ったときにテンペラ画を見かけたら、ぜひ説明欄も読んで絵画鑑賞をより深く楽しんでみてください。
テンペラが利用されるフラスコ画についても記事をまとめているので、そちらも合わせてチェックしてみてくださいね。「フレスコ画とは?技法や有名作品を英語と日本語でわかりやすく解説します」