昨年末からずっと行きたかった、ロンドンのTATE BRITAIN(テート・ブリテン)で行われているイギリス人アーティスト、Lynette Yaidom-Boakyeのエキシビションにようやく行くことが出来た。
Covid-19でロックダウンになってしまったイングランドでは、美術館は5ヶ月ほど閉館していたため、久しぶりの展覧会で私自身もとても期待が高まっていたが、その期待を裏切らないとても見ごたえある展示会であった。
TATEによる展示会の解説
解説に入る前に・・・
私のエキシビッションレポートでは、あえて英語と日本語、2言語での表記にしています。
それは、海外の美術館に訪れた際や西洋美術を勉強する際に、英語で解説文などを読めるようになると、西洋美術の世界がもっと大きく広がると私自身がイギリスに来て体験したから。
日本語訳と原文を照らし合わせていただきながら、西洋美術のことを少しずつ英語で理解できるようになって、アーティストの想いや作品の背景を知ることの喜びをもっと多くの人に感じてもらえたら嬉しく思っています。
まずはこちらのTATEの動画で展示会の概要を掴んでみてください。
Lynette Yaidom-Boakye(1977年ロンドン生まれ)は、さまざまな題材の具象絵画を制作する。彼女が描く人物は、時間を超越し、しばしば抽象的で、意図的に謎めいた設定であることに気づく。キャンバスや目の粗いリネンに描かれた絵は、彼女特有の絵画言語を生み出している。
Lynette Yaidom-Boakye (born in London in 1977) makes figurative paintings drawn from a variety of source materials. Her figures inhabit deliberately enigmatic settings that are timeless and often abstract. Working in oil paint on canvases or coarse linen, Yaidom-Boakye has developed a language of painting that is uniquely her own.
Tate Britain
Yaidom-Boakyeは、画家であると同時に、散文、詩作家でもある。彼女にとってこの2つのクリエイティビティは別ものであるが実は絡み合って存在する。「絵で描けないものを書き、文章に書けないものを描く」と彼女は言う。Yaidom-Boakyeは、自身の絵画につけられた示唆に富むタイトルを「追加のブラシマーク」と呼んでいる。タイトルはそれぞれの作品に不可欠ではあるが、それは説明や記述であってはならないのだ。
Yaidom-Boakye is both a painter and a writer of prose and poetry. For her, the two forms of creativity are separate but intertwined. ‘I rite about the things I can’t paint and paint the things I can’t write about,’ she has said. She refers to her paintings’ evocative titles as ‘an extra brush-mark’. They are integral to each work but are not an explanation or description.
Tate Britain
「スクラップブックや収集した画像から絵を起こしていき、ときには日常の生活からインスピレーションを得ることもあります。自分が求めているイメージを探すんです。写真も撮ります。そして、すべてがキャンバスの上で組み合わさっていきます。この方法をとると、絵画を通して自分自身よく考えることができるし、物理的に成り立つ絵画が出来上がります。人生から何か(無理やり)取り出して絵画に変換しようとしているのではなく、実際に絵の具が話してくれるようなそんな表現を実現することが出来ました。」
I work from scrapbooks, I work from images I collect, I work from life a little bit, I seek out the imagery I need. I take photos. All of that is then composed on the canvas. This lets me really think through the painting, to allow these to be paintings in the most physical sense, and build a language that didn’t feel as if I was trying to take something out of life and translate it into painting, but that actually allowed the paint to do the talking.
Tate Britain
”私にとって黒さ(黒人であること)は決して他人事ではありません。だから、どんなに聞かれても、自分の存在を説明する必要性を感じないのと同じように、作品の中での存在を説明する必要性を感じたことはありません。私は、自分が誰であるか、どのように話すべきか、何を考えるべきか、どのように考えるべきか、といったことを言われるのは好きではなく、そう言われることを必要としていません。
Blackness has never been other to me. Therefore, I’ve never felt the need to explain its presence in the work any more than I’ve felt the need to explain my presence in the world, however often I’m asked. I’ve never liked being told who I am, how I should speak, what to think and how to think it. I’ve never needed telling.
Tate Britain
展示会の様子
展示会の様子がわかる録画動画を編集していますので、もう少々お待ち下さい。
“Fly in League with the Night”の展示作品
今回のエキシビションで特に私が好きだった作品を紹介します。
今回の企画展のTATEが出しているブックは、日本のアマゾンでも購入可能です。私が好きだった展示会なので、ぜひ日本にいながらも、彼女の素敵な作品を楽しんでいただければと思います。
Lynette Yaidom-Boakyeのインタビュー動画
このインタビュー動画が一番彼女が打ち解けてなごやかに彼女の作品のことを話していて私はとても好きでした。彼女の洗練された語り口調と、ユーモアある人柄で彼女の魅力により一層引き込まれます。
Lynette Yaidom-Boakyeのオークション結果
これまでのオークション情報はArtsyやPHILIPSでチェックしてみてください。
彼女のインタビューを色々と見ていると、毎度黒人アーティストとして黒人を被写体に描くことについて質問を投げかけられている光景をよく目にした。その度に彼女は堂々と、黒人に囲まれて生まれ育った環境の中で、黒人を描くことが不思議なことがあるかと応える。
私はなぜか黒人が描かれたエキゾチックな絵にいつも魅了されるのですが、彼女の作品はそのうちの一つでした。見ると心拍数が上がるような彼らの持つ肌の色は、私がそれを描いたとしても何故か説得力にかけるというか、やっぱり黒人である彼女にしか描けない力があると観ていて感じ、それができることを羨ましくも思います。
彼女は1日で絵を完成させてしまうほど比較的スピーディーに作品に取り組んでいるようで、迷いのないブラシストロークや絶妙な色選び、コンポジションの選択など、とても観ていて参考になる点が多いエキシビションでした。
ぜひ今後の彼女の活動にも注目してみてください。
2021/5/24