↑ 絵画:【Venice at night】Oil on Canvas by Satomi (Me)
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3年半ぶりに日本に帰ったり、ベネチアに再度訪れていたりして、前回のイタリア旅行記【序章】を書いてから半年以上も経ってしまったが、もう序章は見ていただけただろうか。まだの方はぜひ、最初に序章を覗いてほしい。
今回はイタリア旅行記の一話目はベネチア編。
序章でも言った通り、このイタリア旅行は2日前の晩に決めた。もともとはフランスに長期で行くつもりだったけれど直前になって心変わりした。
そんな急遽決まった旅だから、もちろんどこに行くかなんて決めていなかった。宿泊先だって、どのエリアがいいのかもよくわからないから、とにかく中心地に近いところを2泊分だけ前日に予約した。
でもそういった何が起こるかわからない状況がいつも私をワクワクさせるから、中毒のようにこんな感じでいつも旅をしている。
なぜベネチアに行ったのか。
友達に、絶対ベネチア好きだと思うよって言われたっていうのが大きかったのもあるが、それとは別に、モネが描いたベネチアのグランドカナルの絵が好きだったから。正直それ以外ベネチアについて何の知識もなかった。
ありきたりと言われるかもしれないけど、私は一番好きなアーティストはって聞かれたらモネと答える。
だから、モネが見た同じ景色を実際に自分自身の目で見てインスピレーションを得たいと思っている。
ロンドンに住んで3年半後くらいに、ロンドンの中心、トラファルガー・スクエアの近くに引っ越したのは、モネが近くのSavoy Hotelに滞在し、テムズ川から眺める国会議事堂などの風景画を描いていたことを聞いたからだし、そこから徒歩五分にあったナショナルギャラリーでモネの睡蓮などの絵をいつでも見られるからだった。
だから、ベネチア近くのマルコポーロ空港に到着して、駅からヴォパレットという水上バスに乗り、陽が傾きかけてほんのりとオレンジ色に染まったグランドカナルで、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂が目の前に現れた瞬間、1世紀以上前のモネがいた空間にタイムスリップしたようで、これまでの人生で見たどの光景よりも心動かされるものがあった。本当に夢の中の世界に入り込んだのではないかと思うくらい、ベネチアが創り出す神秘的な世界に一気に魅了された。
到着翌日、ホテルからもらった地図を手にし街を散策した。特にこれといった当てもなくしばらく歩いていると、大きな薬瓶が壁に陳列された昔の薬局の跡地を改装したクラシックな建物をみつけた。よく見ると奥にガラスギャラリーと書いてある。
興味が湧いて中に入ると、そこにはさまざまなガラスアートの彫刻が展示されていた。ギャラリー内をゆっくりまわっていると、そこにいたスタッフが声をかけてきた。話を聞くと、そのギャラリーは世界の著名な現代アーティストと、ガラス細工で有名なムラノ島の職人がコラボレーションをして生み出したアート作品を扱うベネチアで唯一のギャラリーだという。確かに置いてある作品は、他の商業的なガラス製品を扱うベネチアのお店とは全く異なるものだった。(そちらのファウンデーションはいくつかスタジオを持っていて、サンマルコのエリアにあるギャラリーはBerengo Collectionというところなので、ベネチアに行くことがあればぜひ立ち寄ってみてほしい)
そんなこんなで話はベネチアで行くべきおすすめのスポットの話になった(というか私が一方的に尋ねた)。するとそのスタッフ、クラウディオが夕方頃に仕事が一旦終わるから、その後ベネチアを案内するよと言ってくれた。ベネチアに暮らす人の多くは外から引っ越してきた者が多く、生粋のベネチア人は実は希少らしい。そんな現地出身のクラウディオに案内してもらえるなんて光栄なことはないと、即効でぜひ、ありがとう!と言った。
4時に彼から電話がかかってきてサンマルコ広場で再会した。彼に連れられるがままに、ベネチアの細く入り組んだ道を地図なしに歩き回った。
色んな場所を歩き回って、彼はまた仕事でギャラリーに戻っていった。その日の晩に、仕事が終わったら夜のベネチアを見せてあげるよって言ってくれていたが、あまりにも私が疲れ果てていたので残念ながら実行はできなかった。しかし彼が今度、ムラノ島にある彼らの工房に連れて行ってあげるとメッセージをくれた。
工房巡りが大好きな自分が、イタリア旅行でやりたいと思っていたことの一つが、イタリアの職人を巡って話をきくことだったから、ベネチアに着いてまさかこんな数日で実現するとは思わず気持ちはかなり高ぶった。
その週の土曜日、クラウディオと朝早くに待ち合わせをして、ムラノ島に向かった。そこはまたヴェべチア本島とは違った独特な世界が広がっていた。クラウディオは他の店には目もくれずに一直線にギャラリーの工房にスタスタと歩いていった。
工房に到着し中に入っていくと、火が燃えるパチパチとした音とガラスの塊を支える鉄の棒がぶつかる硬い音が聞こえるピリッとした空間で、私が思い描いていた通りの黙々と職人が作品制作に専念する光景がより一層私の気持ちの高ぶりを掻き立てた。
クラウディオがイタリア語(ちなみにムラノ島はムラノ島で別の方言のようなものがあるらしい)で職人の人たちに話を聞いてくれて、私に英語で説明してくれた。
その時に作っていた作品が、ちょうどアイ・ウェイウェイの蟹をモチーフにしたブラックの巨大なシャンデリアのパーツだという。まさか、アイ・ウェイウェイほどの有名な作品を見られるとは思わず、更にテンションが上がる。
職人たちは、頭の中にすべてのデザインの構図が叩き込み、何も見ずに本物のカニそっくりのオブジェを作っていて、その様子がとにかくかっこいいと思った。ぜひ、その時の様子を下の動画で見てほしい。
イタリア語を喋れない私にとってクラウディオが間に入って説明してくれたことは本当にありがたかった。そして、その後、もう一つ別のBerengo Collectionというギャラリースペースに行き作品を鑑賞したあと、彼が他の同僚(Berengoの創業者の弟)に聞いておすすめしてもらったレストランに行って、美味しい食事をしながらベネチアングラスの歴史などについて色々話を聞かせてもらった。
そんな夢のような一時に、彼がごちそうしてくれたオラッタという魚(日本語では鯛)を描いた絵がこちら。
その日を堺に、クラウディオと更に友達として仲良くなって頻繁に連絡を取るようになった。そしてサンマルコにあるギャラリーに頻繁に立ち寄って話をよくするようになった。
ベネチア到着から2週間近くが経ち、9月に入ったベネチアでは、ベネチア国際映画祭で大きな盛り上がりを見せはじめていたが、それと同時に宿泊先の予約がとても難しくなっていた。いつも私はぎりぎりに予約するから、数日後の宿泊先が殆ど埋まってしまっていて、どうしようかと考えていた。
そしてクラウディオに、誰か知り合いで部屋を貸し出している人を知らないかとダメ元でたずねた。
すると、僕の部屋一室余っているよ。でもスペアのベッドがないから、ベッドを買えばそこの部屋に滞在していいよと。そして、こんなのがあるよ、とエアーベッドのリンクを送ってくれた。即決で買った。
ロンドンにイタリア旅行に行くって決めたときには、ベネチアについてから2週間後に、まさかベネチア人の家に転がり込んでいるなんて予想もしなかった。
それから、ベネチア人のクラウディオとの共同生活が始まった。釣りが好きな彼は、釣った魚で彼が父親に習ったという男の魚介イタリアン料理を振る舞ってくれた。
夜には2人で釣りにも行った。本当はもっと本島から離れたほうが美味しい魚が釣れるらしいけれど、釣り網、バケツ、大きな照明器具を手に彼の家の近くの海岸沿いに夜な夜な向かい、1時間粘って1匹のイカを釣った。
そして翌日には、見た目は最悪だけどこれまで食べた中でも一番美味しいイカ墨リゾットを作ってくれた。
朝には二人でランニングにも行った。想像してみてほしい。朝目覚めて一番初めに見る景色が、ベネチアの歴史的な建築物と美しい海で、車が全くない街の新鮮な空気のなかでランニングをする、こんなに贅沢な一日のスタートの仕方があるのかと思って、泣きそうになるくらいだった。
アートにあふれる街、ベネチアで過ごした3週間は濃厚すぎるくらい充実していて、あっという間だった。もっと長く居たかったが、ミラノでのデザインウィーク、ミラノサローネを見るためにそろそろベネチアをでなくてはならなかった。
ベネチアで出会って友だちになったのはクラウディオだけではない。3週間の間で本当にたくさんの友達ができた。ベネチア家具のオーナーや、そのショールームのパーティーで出会った、ベネチアのアート界で活躍する人、フランス人のガラスランプデザイナー、地元の絵描き、ベネチアのマスク職人・・彼らに温かく迎い入れてもらったおかげで、私のイタリア旅行が最高の形でスタートした。これから続く旅で一体なにが起きるか、もっと楽しみになった。
ベネチア滞在中は本当にたくさんのことが起きて、一記事だけでは書ききらないのでこれから何回かにわけて書くので、ぜひ楽しみにしていてほしい。
それでは、また。